~誰かに頼ることは恥ずかしいことではない。~            ストレスに未然に備え、うまく付き合うプロフェッショナル元女子バレーボール日本代表 大山加奈さんが語るストレスへの備え方

大山加奈さんお写真

ストレスは避けられないものだからこそ、うまく付き合っていく必要がある。
「ストレスに未然に備える」をテーマに、皆さまの毎日に役立つ情報をお届けするGlico「ストレス過多時代を生きぬくストレス対策通信」。

第2弾のゲストは、元女子バレーボール日本代表で現在は指導者、スポーツ解説者としてご活躍中の大山加奈さん。引退後は双子のママとなりSNSでは〝頼る育児〟の大切さを発信しながら、アスリートのメンタルヘルスの問題にも熱心に取り組まれています。

そんな大山さんに、ストレスに未然に備えるための対処法、そしてストレスから心を守ることの大切さについて語っていただきました。

強がって心が悲鳴を上げていた現役時代

── いま、メンタルヘルスの問題は多くの人の関心事であり、最近ではトップアスリートが抱える心の健康にも注目が集まっています。大山さんは、アスリートのメンタルヘルスサポートの在り方を考えるための「よわいはつよい プロジェクト」にメッセージを寄せるなど、積極的にアスリートのメンタルヘルス問題に取り組まれていますよね。

はい。これは、現役スポーツ選手の悩みや苦しみについて元アスリートが耳を傾け・聴くという取り組みです。安心・安全な場所で弱音を吐ける場所というのが、私が現役の頃にはありませんでした。常に「強いひと」を必死に演じて苦しんできた経験があるので、このようなプロジェクトがあったら違っていたんじゃないかって、すごく感じていますね。

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── 小・中・高で日本一を達成し、17歳で全日本入り。エースとして注目を浴びる中で、どのような苦悩やストレスがあったのでしょうか。

10代後半くらいからアテネ五輪に出場した20歳の頃に、眠れない日が続くようになったんです。特に試合の期間中は夜中の3〜4時ぐらいまで目がさえてしまい、まったく眠れませんでした。試合に向かう緊張感というものもあったと思いますが、そのうち大会期間中でなくても眠れない日が続くようになりました。

いま思うと、ケガを抱えてパフォーマンスを発揮できないとか、思うように練習できないときにストレスを感じていました。当時は「日本一以外は意味がない」「オリンピックに出場するために12人に選ばれなければならない」と思い込んでいましたから。そのためには実力を付けなければならないし、普段の練習から監督にアピールすることが最重要課題です。それなのにパフォーマンスが十分発揮できないという状況は、私にとって一番強いストレスだったと思います。

「大山さんだけじゃないよ」という言葉に救われた

── 当時、そのようなストレスに対処するために何かされていましたか?

自分なりに対処しようと、自律神経を整えるというヒーリング音楽を聴いたりアロマキャンドルをたいてみたりしていました。好きな音楽に元気をもらえることもありましたし、家を出たら常に笑顔でいるように心がけて気持ちを前向きに維持するようにしていました。

それでも不眠が解消されることはなく、つらかったです。睡眠不足では本来の力を出せるはずもなく、監督に「下手だ、下手だ」と練習中に怒られて、さらに落ち込む、ストレスをため込む……という悪循環でした。

「これはまずいぞ」と分かっているのに「エースなんだからこんなことではいけない」「自分が弱いからこうなるのだ」と、自分を責めてしまうこともありました。代表に選ばれオリンピックにも出場できた私は十分恵まれているのに、弱音を吐くことはぜいたくだと感じていたんです。バレーボールをやっていた妹にも、チームメートにも言えず、本当に孤独になっていました。

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現役時代の大山さん

── 疲れているのに眠れないというのは、ストレスが限界に達したときに出る症状ですよね。国立スポーツ科学センターのドクターに助けを求めたのでしたね。

はい。日本代表をサポートする国立スポーツ科学センターのドクターに、悩みを打ち明けました。そこで「大山さんだけじゃない。大山さんのように悩んでいるアスリートはたくさんいるよ」と言われて、心が救われました。大勢のトップ選手を診てきたドクターの言葉に心が少しだけ楽になったんです。少しでも眠れるようにと精神安定剤を処方され、それを服用しながら選手を続けていました。

それからは「ちゃんと眠れて明日も元気な自分でいられるなら周りの人や、時には薬にも頼っていいんだ」と、気持ちが変わっていきました。

女性アスリートの場合、毎月の生理も我慢して当たり前とされてしまうことがよくあります。でも、そんなことはなくて「対処法はあるのだから無理しなくていいんだよ。一人で抱え込まなくていいよ」と伝えたいですね。信頼できるドクターに出会うことやコーチや監督とは違う第三者からアドバイスをもらうことは、とても大切なことだと思います。

必要とされていることが原動力に

── 26歳で現役を引退され、不妊治療を経て双子を出産。現在は子育て、バレーボール教室や講演会などで多忙な日々をお過ごしですが、現役時代と比べてストレスとの向き合い方は変わりましたか?

いまは毎日幸せでとても元気に過ごせていますが、不妊治療をしていた時期は肉体的な問題だけでなく、強いストレスを感じていました。友達が出産したと聞いても素直に喜べなくて「なんて自分は嫌な人間なんだろう」と心もつらかった。それに、不妊治療は頑張ったからといって結果がついてくるとは限りません。「頑張り過ぎるのもよくない」と言われるのもストレスに感じていましたね。

そんな中で心の支えになったのは、愛犬・だいずの存在でした。だいずを迎えてからは、夜眠れないということがほとんどなくなり、現役時代から服用していた薬を手放すことができたんです。自分のことを必要としてくれて、愛してくれるこの子がいるから大丈夫。そんな穏やかな気持ちになれました。

現役時代は、けがの影響もあり「もう自分は必要とされていない」と感じるのがとても苦しかったんですが、今は講演などで誰かの役に立てていると実感できて、それが頑張る原動力になっています。

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ストレスや緊張感というものは、ある程度あった方ががんばれると思うんです。でも、好きなことだったのにそれを楽しくないと感じたときや、ミスをしてはいけないといったことばかり考えるようになったら、要注意かもしれません。

私の場合、うまくなりたい、強くなりたい、オリンピックに行きたいというプラスのエネルギーでバレーボールをしてきたのに、日本代表になってからは「メンバーから外されないように」とか「怒られないようにしなきゃ」というマイナスになることばかりに意識が向いていたように思います。

どんなことでもポジティブな気持ちで取り組めているならOK。逆に、ネガティブな気持ちがぐるぐる回っていてうまくいかない感じがするなら心の状態が黄色または赤信号といっていいと思います。誰かに気持ちを聞いてもらう時間や、心を休める時間を持ってほしいですね。

ポジティブな気持ちで眠ることで心を健康に保つ

── ストレスに未然に備えるためにできることはどんなことでしょうか。大山さんが普段心がけていることも含めて、具体的な方法を教えていただけますか。

毎晩、眠る前にその日にあったうれしかったことや、楽しかったことを思い返す作業をしています。ポジティブな気持ちのまま眠ると睡眠の質もよくなりますし、翌日の体調もいいです。

ただ、どうしても忙しくてストレスフルな日もあると思います。そんなときはちょっと深めに深呼吸をして心を落ち着かせるようにしています。ストレスを感じている時は、呼吸が浅くなりがちですから。

あとは、どんな自分も受け入れることができるとすごく楽になります。先ほども話しましたが、私は不妊治療をしていたとき、妊娠・出産した人を心から祝福できない自分が嫌でたまりませんでした。でも、そんな自分の黒い部分、嫌な部分も「仕方ないよね」って受け入れることにしたんです。

高校時代にやる気が起きない時期がありましたが、当時の恩師がこんな言葉をかけてくれたんです。「小学校からずっとがんばってきたんだから、そんな時期があっても人として当たり前だよ。またいつか立ち上がるときが来るのだから、いまはやる気が起きなくてもそのままでいいじゃないか」と。焦ったり、気持ちが落ち着かないときにはこの言葉を思い出しています。

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── すてきな言葉ですね。大山さんが日常生活の中で、ストレスへの備えとして心がけているルーティンのようなものはありますでしょうか。

食事や睡眠をしっかりとるという、基本的なことを大事にしています。健康に生きていく上でベースになるものですよね。時には自分の好きなものやおいしいものを食べる時間も必要です。双子の寝かしつけに時間がかかってしまって、ちょっとイライラしてしまった日は、夜遅い時間でも「まあいいか」とアイスを食べたり(笑)。自分が元気になることを優先するようにしていますね。

それから、子どもと歌を歌うこと。私が元気な理由の一つは音楽の力もあるかしれません。子ども向けの歌は歌詞も素晴らしいものが多くて元気が出るんですよ。

弱音を吐いてもいい。「助けて」と声を上げてみよう

── 自分の弱さを受け入れたり、助けを求めたりすることも、心を健やかに保つ秘訣なんですね。

双子ママ向けに子育ての悩みをオープンに吐き出せるようなオープンチャットの場を作ったりもしています。

実は、SNS上で大山加奈のアカウントの他に匿名のアカウントを作って、同年代の子どもを持つお母さんたちとやりとりしたりしているんです。裏アカってネガティブなイメージがありますが、私は自分が元気になるためと、ママたちと励まし合うために使っています。SNSってそんな活用法もあるんですよ。

── 最後に、心を守る、ストレスに未然に備えるということについて、改めて読者の皆さまにメッセージをお願いします。

改めて思うのは、私が現役時代に「助けて」を言えたらどんなに楽だったろうということですね。出産してからは自分の弱さを人に見せられるようになって、それがいい循環を生んでいると思います。子育ての何もかもを一人でこなすことって無理なんです。家族や地域の助けを借りながら前に進むことができていることが、とても幸せです。

最近ある人に「借りた力も自分の力」という言葉をもらってハッとしたんです。助けてもらうことに後ろめたい気持ちを持たなくていい。頼ることも能力の一つだと思うようになってからは、心がすごく楽になりました。悩んだり苦しんだりしながらがんばっている人はたくさんいらっしゃると思うので、誰かに頼ることは恥ずかしいことではないですよと伝えたいですね。私の経験からも言えます。心が悲鳴を上げていたら、ドクターでも身近な人でもいい、早めに助けを求めてほしいと思います。

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大山加奈さん
1984年生まれ。小学校2年生からバレーボールを始め、小中高全ての年代で全国制覇を経験。2001年に全日本代表に初選出され、高校卒業後は東レ・アローズ女子バレーボール部に入部、翌年にはアテネオリンピックに出場するなど、力強いスパイクを武器に日本を代表するプレーヤーとして活躍。2010年に現役を引退し、現在は一般社団法人 日本車いすラグビー連盟や、公益社団法人日本女子プロサッカーリーグ(WEリーグ)の理事を務めながら、キッズコーディネーショントレーナーの資格を取得し、全国での講演活動やバレーボール教室、アスリートのメンタルヘルスに関する啓発活動など精力的に取り組み幅広く活動している。プライベートでは2021年に双子を出産。自身のSNSでは、子育ての楽しさとともに、双子育児の親たちが抱える課題についても情報発信を続けている。

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