乳酸菌の研究GCL1815株の発見

Glicoの研究開発

Glicoグループは「すこやかな毎日、ゆたかな人生」の実現を目指し、素材に基づくおいしさと健康の価値を創出するため、科学的に実証する活動を進めています。

免疫機能を高める
乳酸菌GCL1815株を選抜

研究の概要

乳酸菌の探索にあたり、免疫への作用を高精度で推定するために、3つの免疫指標(①IgA産生誘導、②樹状細胞活性化、③IL-12産生誘導)で評価し、GCL1815株を選抜しました。

GCL1815株の電子顕微鏡写真

研究方法

Glicoが収集してきた菌株(約1万株)の中から、食品に使用される菌種であり、標準的な乳酸菌の培地でよく育つ308株の乳酸菌を選抜し、そのうえで免疫に関する評価試験を次の3つの指標で行いました。試験には、熱処理によって殺菌した菌体を用いました。

研究結果

1IgAの産生を誘導する能力が高い

IgAは、抗体の一種です。IgAが多く産生されるほど、ウイルスや細菌などの病原体の感染を防ぐ能力が高まります。 IgAを産み出す細胞であるヒト末梢血単核細胞(PBMC)に、308株それぞれの乳酸菌を加えて、培養液に産生されたIgA濃度を測定しました(酵素結合免疫吸着測定法、ELISA)。その結果、対照群と比較して高いIgA産生を示す上位15株を探し当てました。次に、ボランティアの血液から得たPBMCに、乳酸菌15株をそれぞれ加えて、同様にIgA濃度を測定したところ、8株はIgA濃度が有意に高い値を示しました。特に、GCL1815株は、対照群と比較してほぼ2倍高いIgA濃度となりました。

2樹状細胞を活性化する能力が顕著

樹状細胞のうち、従来型樹状細胞(cDC)は多様な機能があり、T細胞に感染した細胞に攻撃するよう命令する機能があります。cDCの活性が高いほど、侵入した病原体の増殖がT細胞の働きで抑えられる可能性が高いことを示します。
cDCの活性の高さを、cDC様細胞(実験的に用意した、cDCのような性質の細胞のことを表します)に発現するCD86の強度で評価しました。①で選んだ乳酸菌15株それぞれを加えた時のCD86の発現強度を、フローサイトメーターを用いて比較しました。乳酸菌15株中13株でCD86の発現が対照群よりも有意に高く、さらにGCL1815株を含む5株については2倍以上高い発現を示しました。

3IL-12の産生を誘導する能力が高い

IL-12は、免疫機能の調節をするサイトカインと呼ばれるタンパク質の一種です。IL-12はNK細胞やT細胞に感染した細胞への攻撃命令を出すことから、IL-12が多く産生されるほど、病原体の増殖がより効果的に抑えられます。それぞれの乳酸菌を加えた時にcDC様細胞が産み出すIL-12濃度を、ELISAで測定し比較しました。その結果、GCL1815株は対照群よりも有意に45倍以上高いIL-12濃度を示し、強力にIL-12を産生させました(図1)。

図1. 各乳酸菌株の添加によりcDC様細胞から産生するIL-12の濃度比較
**は有意水準0.01で統計学的に有意差あり。

本研究の論文情報

Tsuruno K, et al. Screening of novel lactic acid bacteria with high induction of IgA production, dendritic cell activation, and IL-12 production. Biosci Biotechnol Biochem. Volume 89, Issue 3, March 2025, Pages 459–464.

GCL1815株の
風邪の発症予防効果を検証

研究の概要

GCL1815株が風邪の自覚症状に及ぼす影響を評価することを目的に、ヒト試験を実施しました。GCL1815株を継続して8週間摂取することで、2種類の樹状細胞の活性化が誘導され、風邪の発症予防につながる可能性が示されました 。

試験のまとめ

試験について

デザイン
ランダム化二重盲検プラセボ対照試験
解析した参加者
健康な成人男女96名 x 2グループ
期間
8週間 (2023年1月〜3月)

試験グループと摂取頻度

GCL1815群
GCL1815株 (60億個、加熱殺菌した菌体) 含有カプセルを摂取するグループ
対照群
比較対照として、GCL1815株を含まないカプセルを摂取するグループ
摂取頻度
1カプセル/日

評価した項目

主要な項目
風邪の自覚症状に関するアンケート (症状スコアを5段階で毎日記録)
副次的な項目
末梢血中の免疫細胞に関する複数の指標を評価

研究結果

1風邪の症状に対する効果

風邪の自覚症状の累積発症日数が有意に減少
試験期間の累積日数(解析対象の96人×56日=5376日)のうち、風邪の自覚症状があると回答した人の日数の累計は、対照群で1116日だったのに対して、GCL1815群では938日と、有意に少ない結果が得られました(p<0.001,Chi-Square Test)。
風邪の自覚症状が減少
症状別の累積日数を評価した結果、風邪の次の自覚症状において発症数が有意に減少することが確認されました(p<0.05,Chi-Square Test)。
・全身症状:熱っぽさ、疲労感、倦怠感
・部位別症状:鼻水、鼻づまり、痰(たん)

2免疫機能に関する評価

体には、侵入した病原体などの様々な異物を防御する自然免疫と、生きていくなかで体が特定の異物を記憶して排除する獲得免疫が備わっています。樹状細胞は、自然免疫と獲得免疫のそれぞれを調整する細胞です。風邪の症状の減少につながる免疫機能への作用を明らかにするために、試験参加者の樹状細胞の活性化を示す指標を評価しました。

プラズマサイトイド樹状細胞(pDC)の活性化
pDCは、ウイルスを認識すると大量のI型インターフェロン(サイトカインの一種)を産生し、抗ウイルス状態を誘導することが知られている細胞です。GCL1815群では、摂取4週目と8週目において、pDCの活性化指標(HLA-DR)の変化量が有意に高い値を示しました(図2)。
図2. pDCの活性指標の変化 0週目からのHLA-DR発現変化量の比較。
*は有意水準0.05で、統計学的に有意差あり。
1型従来型樹状細胞(cDC1)の活性化
cDC1は、T細胞と抗体産生細胞に働きかけ、最終的にウイルス感染細胞の排除を促すことが知られています。GCL1815群は、摂取8週目においてcDC1の活性化指標(HLA-DR)の発現量が有意に高い値を示しました(図3)。
図3. cDC1の活性指標の変化 8週目のHLA-DR発現量を比較。
*は有意水準0.05で、統計学的に有意差あり。

本研究の論文情報

Wada H, et al. Lactobacillus helveticus Induces Two Types of Dendritic Cell Activation and Effectively Suppresses Onset of the Common Cold: A Randomized, Double-Blind, Placebo-Controlled Trial. Nutrients. 2024, 17(1), 101.