アスリートの糖質不足がパフォーマンスを低下させる?原因・リスク・対策を解説

パフォーマンスに関わる栄養・休息のススメ

日々ハードなトレーニングをこなすアスリートや運動愛好家にとって、十分なたんぱく質(プロテイン)の摂取は常識になりつつあります。「筋肉をつけるため」「激しい運動後のリカバリーのため」と、コンスタントなたんぱく質補給を意識している人も多いことでしょう。

その一方、たんぱく質はしっかり摂っているのにも関わらず、「後半バテてしまう」「体調を崩しがち」といった課題を抱えている人もいるようです。もしかしたら、その原因は、糖質不足にあるのかもしれません。

今回は、近年発表されているスポーツ栄養学の研究成果をもとに、アスリートが抱えがちな糖質不足の実態とその代償を明らかにするとともに、明日から実践できる栄養戦略に迫ります。

アスリートに多い糖質不足の実態:トレーニング量に見合った食事ができていない

「自分はしっかり食べている」と思っていても、トレーニングによる消費エネルギーの増大に見合う栄養がとれていないケースはあります。

江崎グリコが筑波大学の研究チームと共同で男性アスリートを対象に実施した栄養調査によると、トレーニングをした日では、エネルギー出納がマイナスだったことが報告されています(※1)(表)。エネルギー出納とは、食事から摂取したエネルギーから、基礎代謝や運動などで消費したエネルギーを差し引いた収支のことで、これがマイナスであることは、激しい練習などによる消費に対して、食事からのエネルギー摂取が追いついていないことを示しています。

エネルギー出納とは

また、興味深いことに、このアスリートたちは、一般的に推奨されているたんぱく質量は摂れているのにも関わらず、糖質量が不足していました。

表 トレーニング日におけるエネルギー出納および糖質・たんぱく質摂取量(中央値)

競技 トレーニング時間
(時間/日)
エネルギー出納
(kcal/日)
糖質摂取量
(g/kg/日)
たんぱく質摂取量
(g/kg/日)
サッカー 2.0 -767 5.0 1.9
長距離走 2.8 -367 6.4 2.1
ロードレース 4.3 -948 8.3 2.4

※一般的に、アスリートに推奨されるたんぱく質摂取量の目安は「1.2〜2.0g/kg/日」、糖質は練習量に応じて「6〜10g/kg/日(またはそれ以上)」とされています。この研究による調査では、たんぱく質は3競技ともに目安を満たしている(または上回っている)ことがわかります。一方で糖質については、サッカーや長距離走で目安を下回っていました。またロードレースについては、8.3g/kg/日と数値上は目安の範囲内に見えますが、1日4時間以上というトレーニング時間を考慮すると、実態としては不足している可能性が高いと考えられます。また、ロードレースを含む全競技でエネルギー出納がマイナスとなっていることからも、日々のトレーニング量に対して糖質を中心としたエネルギー補給が十分に追いついていないことが示唆されます。
※摂取エネルギーは毎食の写真とアンケートを用いた食事記録をもとに算出。消費エネルギーは、活動記録に基づくMETs(代謝当量)を用いた運動中の消費エネルギーと、非運動時の推定消費エネルギーを合算することで算出。

さらに、10ヵ国・計46人の持久系アスリートを分析対象として、12週間にわたりトレーニング・食事調査を実施した別の研究では、日々のトレーニング負荷に応じて、糖質摂取量を変動させている選手は少ないことが明らかになっています(※2)。これは、多くのアスリートは、トレーニングによる消費に応じて、糖質摂取量を調整していないことを示しています。

短時間のパフォーマンス発揮でも糖質は明暗を分ける

「糖質をしっかりとろう」と聞くと、カーボローディング(グリコーゲンローディング)という言葉を思い浮かべる人もいるでしょう。カーボローディングとは、1.5~2時間以上続く競技で必要な糖質を体内に蓄えるための食事法のことで、マラソンランナーの多くが大会数日前から取り入れている手法です。

カーボローディングとは。食事の摂り方や実践方法について

ところが、近年の研究によると、わずか数分間で決着がつく競技であっても、糖質不足がパフォーマンスに悪影響をもたらすことがわかっています。中長距離ランナーを対象とした実験では、事前に体内の糖質を減らす運動を行った後、2日間にわたり低糖質食(平均1.0g/kg/日)を摂る条件と、高糖質食(平均9.7g/kg/日)を摂る条件とで、1500mのタイムトライアルを実施しました(※3)。その結果、低糖質条件は、高糖質条件に比べて、平均4.5秒(約2%)も遅くなりました。

ここで興味深いのが走る直前の体重です。実は、タイムが速かった高糖質条件のほうが、体重は約0.7kg重かったことが報告されています。なぜ重くなったかというと、食事から摂った糖質がエネルギーの塊(グリコーゲン)として筋肉などに蓄えられる際、同時に水分も引き込んで蓄えられる性質があることが影響していたと考えられます。

自らの体重を運ぶランニングでは「軽いほうが有利」と思いがちですが、この研究結果は「多少体重が増えてでも、糖質をしっかり摂る方が、パフォーマンスは上がる」という現実を教えてくれています。

慢性的な糖質不足が引き起こす懸念

糖質不足は、その日のパフォーマンスを下げるのみならず、アスリートの身体の機能そのものに悪影響を与えることもわかりつつあります。

日本の女子実業団の長距離ランナー6名を対象とした興味深い事例研究があります(※4)。この研究では、精度の高い手法(※5)で彼女たちの消費エネルギーを算出し、スポーツ栄養士による定期的な栄養指導と適切な食事提供を通じて、消費量に見合うよう食事を改善したところ、身体にうれしい変化が起こったのです。

ここで注目したいのは、彼女たちはすでに推奨量のたんぱく質を摂れていたため、栄養指導では主食を中心とした糖質を増やすことに焦点を当てたという点です。糖質をしっかり摂ってエネルギー不足を解消した結果、安静時代謝量が正常値を下回っていた者の数値が回復し、高止まりしていた1名のストレスホルモンの値も落ち着きを取り戻しました。

さらに見逃せないのが、鉄欠乏状態の改善です。アスリートの貧血対策というと、「レバーを食べよう」「鉄分のサプリを飲もう」と思う人が多いのではないでしょうか。しかしこの研究では、糖質をメインに、マイナスのエネルギー出納を解消することで、5名の選手にみられた鉄欠乏状態が、4名で改善または回復傾向に向かったのです。

もちろん、これは少人数の陸上選手を対象とした研究であるため、全てのアスリートに当てはまると断言することはできません。しかし、自分の消費エネルギーに見合った食事、とりわけ糖質をしっかり摂ることが、コンディション維持や不調の予防に関係するのかを教えてくれる、ヒントと言えるでしょう。

明日からできる、アスリートのための食事戦略

アスリートのための食事戦略

パフォーマンスを最大限に引き出し、体調不良を防ぐためには、糖質を摂ることが大切です。その改善のヒントとして、タイミングの見直しが挙げられます。前述した栄養実態調査では、朝食と昼食における糖質の摂取量が、夕食に比べて少ない傾向が指摘されています。夕食はもちろん、朝食や昼食でもしっかりと糖質を補給し、一日を通じてバランスよくエネルギーを確保する姿勢が大切でしょう。

とはいえ、日々の練習スケジュールやライフスタイルによっては、「朝早くから練習がある」「昼にゆっくり食事がとれない」といったケースもあるでしょう。そうした場合は、無理に1回の食事でたくさん食べるのではなく、おにぎりや果物、手軽に摂れるサプリメントなどを補食として取り入れ、糖質を補う工夫が有効です。
特に持久系競技では、運動中にエネルギー補給を行うことも重要です。トレーニング時間が長い日や発汗量が多い環境では、糖質と水分を同時に補給できる飲料を活用することで、エネルギー不足の予防につながります。

また、近年のスポーツ栄養学では、日々のトレーニング負荷に応じて糖質の摂取量を柔軟に変えるという考え方も提唱されています。本当にそれが最適なのかは必ずしも明確ではないものの、「練習時間が長くなる日は、いつもより補食を1回増やして糖質をより意識する」といったように、練習量との兼ね合いを見ながら工夫していくのも良いでしょう。

このような臨機応変で柔軟な姿勢こそが、ハイパフォーマンス発揮と健康を両立させるための、無理のない栄養戦略と言えるでしょう

※1 Nakamura, N., Ozawa, S., Tokiwa, S., Yamamoto, K., Yui, K., Yoshitake, R., Yamaguchi, T., Kioka, K., & Omi, N. (2026). Energy intake and expenditure of Japanese male soccer, long-distance running, and road cycling athletes across multiple teams. Physical activity and nutrition, 30(2), 53–62.
https://doi.org/10.20463/pan.2026.0020

※2 Rothschild, J. A., Morton, J. P., Stewart, T., Kilding, A. E., & Plews, D. J. (2026). Dietary Intake of Endurance Athletes During 12 Weeks of Self-Selected Training: An Observational Study. International journal of sport nutrition and exercise metabolism, 1–10. Advance online publication.
https://doi.org/10.1123/ijsnem.2026-0032

※3 Venckunas, T., Minderis, P., Silinskas, V., Buliuolis, A., Maughan, R. J., & Kamandulis, S. (2024). Effect of Low vs. High Carbohydrate Intake after Glycogen-Depleting Workout on Subsequent 1500 m Run Performance in High-Level Runners. Nutrients, 16(16), 2763.
https://doi.org/10.3390/nu16162763

※4 Taguchi, M., Ishizu, T., Goshozono, M., Moto, K., Miura, N., Endo, S., Yasuda, E., & Torii, S. (2025). Energy intake to meet total energy expenditure improves iron deficiency and metabolic suppression in female long-distance runners: A case series study with dietary intervention. Women’s health (London, England), 21, 17455057251385372.
https://doi.org/10.1177/17455057251385372

※5 二重標識水法(DLW法:Doubly Labeled Water method)

髙山 史徳(たかやま ふみのり)/博士(体育科学)・株式会社ユーフォリア
ランナーを中心に多くの持久系アスリートをサポート。HRV(心拍変動)などの客観的指標と主観的な体調データに基づくコンディションの最適化や、筋力トレーニング指導に精通。持久系スポーツ領域における研究論文を多数執筆。
フルマラソン自己ベスト:2時間46分

おすすめ商品

オンラインショップで購入

店舗からもご購入いただけます

下記の店舗一覧より
お近くの店舗でお求めください

お買い求めいただける店舗一覧

このサイトをシェアする

CLOSE
CLOSE

クーポンコードをコピーしました

powerpro2306

Amazonで購入