
パフォーマンスに関わる栄養・休息のススメ

こちらは「フィットネスと疲労の「理論」と「現実」を照らし合わせる」と連動した『基礎編』です。
「走れば走るほど、速くなれる」
多くのランナーがそう信じて、日々のトレーニングに励んでいます。しかし、現実はもう少し複雑です。
例えば、数週間にわたってハードなトレーニングを積んだ直後は体が重く、走力が落ちたように感じても、その後に少し休んでレース当日を迎えると自己ベストを更新できた。そんな経験はありませんか?一見不思議に見えるこの感覚を、理論的に説明してくれるのがフィットネス疲労理論(Fitness–Fatigue Model)です(※1)。
自らの手でフィットネス疲労理論に基づくパフォーマンス(走力)を計算するのは難しいですが、この理論の考え方自体は意外とシンプルなものです。トレーニングを行うと、私たちの身体には二つの変化が同時に起こります。
一つは、トレーニングを重ねることで少しずつ積み上がっていく体力、つまり「フィットネス」(プラスの効果)。もう一つは、トレーニング直後に押し寄せる一時的な「疲労」(マイナスの効果)です。ランナーのパフォーマンスは、この「フィットネス」と「疲労」のバランスで決まってきます。
ここで重要なポイントは、フィットネスと疲労では、身体に影響を与えるスピードと期間が異なるということです。一般的に、疲労はトレーニング直後に急激に高まりますが、比較的短い期間で減ってきます。一方、フィットネスは緩やかに向上し、一度身につくと維持されやすいという特徴があります。

トレーニングによる刺激が加わった後、フィットネス(体力)と疲労は、それぞれ異なる振る舞いで変化します
そのため、ハードなトレーニングを続けた直後は、急増した疲労が、フィットネスを上回ってしまい、一時的にパフォーマンスが低下することがあります。これが「練習しているのに遅くなった」と感じる正体です。しかし、そこで焦る必要はありません。短期的なパフォーマンスの浮き沈みに一喜一憂せず、疲労が抜け、フィットネスが顔を出すタイミングを待つという、長期的な視点を持つことが大切なのです。
この現象は、単なる感覚論ではありません。ある研究(※2)では、持久系アスリートに数週間激しいトレーニング(鍛錬期)を課したところ、トレーニング期間終了直後の3km走のタイムは、トレーニング前よりも悪化しましたが、その後に適切な休養(調整期)を設けた結果、記録が大幅に向上したのです。

鍛錬期と調整期におけるパフォーマンスの変化 ※
※パフォーマンスは3km走の変化率をもとに算出
「頑張った直後に結果を求めすぎない」「パフォーマンスは長期的な波(トレンド)で捉える」
これらは、ランナーのトレーニングにおける基本でありながら、意外と見過ごされがちで、重要な心構えと言えるでしょう。
フィットネス疲労理論の真価は、こうした「いつ、どれくらいの負荷をかければ、どのタイミングで効果が表れるのか」というパフォーマンスの波(トレンド)を可視化してくれる点にあります。トレーニングという努力の総量だけでなく、努力のタイミングを最適化する手助けをしてくれるのです。
パワープロダクションアプリは、フィットネス疲労理論に基づいたパフォーマンスの波を可視化することで、あなたのトレーニングパートナーになってくれます。Garminのスマートウォッチで記録された日々のトレーニングデータを自動で分析し、目標レースに向けて、あなたのフィットネスと疲労のバランスを可視化することで、ハイパフォーマンス発揮へのリードラインを示してくれます。
このアプリを活用すれば、これまで感覚やコーチの主観に頼りがちだった将来の自分のパフォーマンスがグラフで可視化できます。また、アプリを使うことで、「目標達成に向けて、今のトレーニング負荷は足りているだろうか?」「最近、急に頑張りすぎてオーバートレーニング気味ではないだろうか?」といった、自身のトレーニング状況を客観的に振り返るきっかけにもなります。
こうしたデータに基づいた定期的な振り返りが、レースに向けたコンディション調整を、より計画的で確かなものにしてくれるのです。
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※1 Banister, E. W., Calvert, T. W., Savage, M. V., & Bach, T. (1975). A systems model of training for athletic performance. Aust J Sports Med, 7(3), 57-61.
※2 Coutts, A. J., Wallace, L. K., & Slattery, K. M. (2007). Monitoring changes in performance, physiology, biochemistry, and psychology during overreaching and recovery in triathletes. International journal of sports medicine, 28(2), 125–134. https://doi.org/10.1055/s-2006-924146
髙山 史徳(たかやま ふみのり)/博士(体育科学)・株式会社ユーフォリア
ランナーを中心に多くの持久系アスリートをサポート。HRV(心拍変動)などの客観的指標と主観的な体調データに基づくコンディションの最適化や、筋力トレーニング指導に精通。持久系スポーツ領域における研究論文を多数執筆。
フルマラソン自己ベスト:2時間46分
