災害対策コラム
危機管理アドバイザー 国崎 信江 氏

危機管理アドバイザー

国崎 信江 氏

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すべての人の安全をあらゆる状況から守ってゆくためには

最後に、企業や自治体などの公助に関する防災備蓄対策と新型コロナ関連についてお話します。
時折被災地に直接赴きます。そこではさまざまな救援物資が被災された方々に提供されていますが、普段食べなれたそれも温かいものを食べた時「生きてる、旨い」と思わず口にされるのを見て、平時に食べなれたものを提供することが傷ついた心を癒すことを実感することが何度もあります。

前の章でお話しました日頃から食べなれたものを有事に備えておく「家庭内流通備蓄」を自治体備蓄のような公助の領域でも、手法は変わりましょうが、考え方は取り入れていただけると嬉しいです。現に最近の自治体の防災備蓄食は、前年を踏襲して量を準備するだけのものから、住民サービスの観点から栄養の偏りや嗜好性に配慮した「おいしい」ものが増えているといった質的変化が起こりつつあると感じています。企業におかれての防災備蓄は、帰宅困難者対策と被災した従業員への救済にフォーカスした対策になろうかと思います。

自治体の皆さんは社会インフラの基盤として、声なき声や要介護者を含むすべての人々を救護するべく取り組まれています。そこにはもちろん赤ちゃんも含みます。2016年に起こった熊本地震の際、当時のわが国にはまだなかった液体ミルクを海外からの救援物資として目にした時、「赤ちゃんの命をつなぐ」点で必要性を強く感じました。しかし現状、自治体において液体ミルクの備蓄は進んでいるとは言えません。

液体ミルクの備蓄を進めるには、賞味期限が短く入れ替え頻度が多いオペレーションの課題と、切り替え品の有効な活用方法について解決しなければならず、その点が障壁になっている自治体が多いのでないでしょうか。江崎グリコさんには初めて国内品を上市したメーカーとして自治体への積極的なご提案をお願いしたいです。

最後に新型コロナ感染症の渦中での防災対策について。避難所での密を嫌がることによる「逃げ遅れ」の発生や、避難所内での「咳」トラブル、避難所内でフィジカルディスタンスをどう確保するかなど、コロナ禍固有の解決しなければならない課題が発生しています。さらには、新型コロナ感染症渦中の密回避の対策としてダンボールベッドやテントを新たに用意した自治体は、従来の備蓄品収納スペースでは収まらないため、追加で保管スペースを用意せねばならないというような新たな課題も発生しています。

衛生面への配慮から炊き出しが好まれなくなり、食事は小分けでの提供が多くなっています。それは避難所での密を回避するため知人宅や自宅、自家用車などの分散避難が進行していることもありますし、災害備蓄品にかかわらず小売店店頭で食品や菓子をみても外国より個包装の形態の商品が多いことでお分かりのように、そもそも日本の方は個包装を好む方が多いようですから、それらの点からも合理的だと思います。

国崎 信江 氏 プロフィール

危機管理教育研究所 代表危機管理アドバイザー

【主な経歴】

横浜市生まれ。女性や生活者の視点で家庭、地域、企業の防災・防犯・事故防止対策を提唱している。講演、執筆、リスクマネジメントコンサルなどの他、内閣府「防災スペシャリスト養成企画検討会」委員、東京都「震災復興検討会議」委員などを務める。現在はNHKラジオ マイあさ!の「暮らしの危機管理」のコーナーやテレビ、新聞などで情報提供を行っている。著書に『巨大地震から子どもを守る50の方法』(ブロンズ新社)『マンション・地震に備えた暮らし方』(エイ出版社)『保育者のための防災ハンドブック』(ひかりのくに)などがある。
https://www.kunizakinobue.com/