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世界の巨人に挑む、グリコのアイス

事業開始から半世紀以上を経て、海外へ

2016年11月16日は将来、江崎グリコにとって大きな意味を持つ日となるかもしれない。

同社は同日、海外でのアイスクリーム事業をインドネシアで開始したことを発表。2016年1月に初進出したタイに続き、2ヶ国目となる。


江崎グリコが日本国内でアイスクリームを発売したのは1953年。以来、コーンタイプアイスクリームの草分けとなるジャイアントコーンや2人でシェアして食べるパピコ、極めて特徴的な形状をしたアイスの実など、工夫あふれる商品を次々に発売して売上を伸ばしてきた。現在では国内のパーソナルタイプアイス市場ではシェア1位につけている。


そんな江崎グリコが今、海外のアイスクリーム市場に相次ぎ参入しているのはなぜなのであろうか? そこには国内の食品企業が抱える課題と同社独自の勝算があった。

タイのスーパーマーケットで陳列されるグリコのポッキー

国内食品企業の課題

少子高齢化が進み今後人口が減少に転じるわが国において、国内食品市場の将来は決して楽観的とは言えない。特に菓子やアイスクリームなどの嗜好品を主力商品とする江崎グリコなどの企業にとっては、子どもをはじめとする若年層の減少は、売上に大きく影響することが懸念される。

こうした課題への対応として同社が選んだ戦略のひとつが、海外での事業拡大である。同社はすでに40年以上前にタイに工場を建設し、主力商品であるポッキーの製造販売を行ってきており、現在ポッキーは30以上の国と地域で販売されている。国内菓子メーカーの海外進出においては先駆者的な存在といえる。そうした同社の海外事業拡大戦略の中で、菓子に続く2本目の柱として選んだのがアイスクリームなのである。

整ってきた外的要因

なぜこのタイミングでアイス事業の海外進出に踏み出したのであろうか?一番のポイントは 冷凍物流システムの構築が進んだこと。アイスをとけることなく、生産工場から消費者の手もとに届けるのは、冷凍物流の仕組みと高度な管理ノウハウなどが必要とされる。
しかし、近年になり、そのようなサービスが東南アジアでも育ってきたことにより、現地でも良い状態を保ったままアイスをお客様に届けることができるようになったのである。
こうした外的条件が整ってきたことも同社が海外でのアイスクリーム事業にのりだす一因となった。

左:タイでグリコのアイスを購入する現地の人々 右:品切れ状態のアイスクリームストッカー

タイでつかんだ、確かな手ごたえ

同社が海外のアイスクリーム市場に本格的に参入したのは、今年1月のタイが初めてである。

タイでは事業開始までのリードタイムを短縮するため、現地メーカーへの委託生産という形態をとり、商品についても、ジャイアントコーンやパリッテといった日本でもお馴染みのブランドを持ち込んだ。

「タイにおいてはすでにポッキーを中心とする菓子で築いたグリコのブランド力があり、さらに2013年の渡航の自由化によって、非常に多くのタイの人たちが日本を訪れていたので、日本のブランドでも十分通用するだろう、という勝算はあった」(草間幹夫常務執行役員)
その目論見は見事的中し、1月の発売以来グリコのアイスクリームは瞬く間にタイの消費者の心をつかみ、入荷するとすぐに売り切れという状態が続いた。一部では「あえて供給を絞っているのでは」という疑念の声がネット上に出回ったこともあった。

今では状況は多少落ち着きつつあるが、同社の海外アイスクリーム事業は上々のデビューを飾ったと言えよう。

グリコの海外戦略を語る草間幹夫常務執行役員

ほぼゼロの状態から挑む、インドネシア

一方、インドネシアにおいては、タイとはまったく異なる戦略で臨んでいる。

生産はジャカルタ郊外に新たに建設した工場で行い、販売する商品も、すべてインドネシア市場に合わせて新しく開発したものばかり。そして事業主体となる会社も、現地との合弁会社である。

こうした戦略の違いについて草間常務は「タイと比べるとインドネシア市場ではまだまだグリコブランドの認知度は低く、消費者の嗜好や商習慣も異なる。そうした状況にうまく対応するため、合弁という形態を選んだ。合弁相手の持つノウハウや経験とグリコの強みである高度なマーケティング力と技術力を融合することで今後急速に拡大するインドネシア市場で勝ち残っていく」という。

インドネシア首都ジャカルタの通勤ラッシュの様子

そこにまだない価値で、市場を切りひらく

しかしながら、タイにおいてもインドネシアにおいても、市場でのライバルは日本市場とは異なり、売上高数兆円という世界の巨人たちである。しかもそれらのライバルたちは既に早くからこれらの市場に進出し、大きなシェアを維持している。

ある意味日本代表とでもいえるグリコは、世界の巨人たちにどのような戦いを挑んでいくのか? そこにはグリコならではの強みを生かした、独自の価値創造がある。

「当社の強みは、市場にまだないユニークな商品を生み出す開発力。各国の特異性やニーズを踏まえながら、新しい価値を消費者に提供していく。そうすることによって、既存のシェアを奪い合うのではなく、マーケットそのものを拡大することができる」(草間幹夫常務執行役員)

好みやテイスト、文化、宗教……食に関わる課題は多く、受け入れられるのは容易ではない。いつかグリコの提供する価値が各国で新たな食文化として根付き、世界の巨人たちとの競争に勝ち抜いた時、2016年11月16日は同社にとって特別な日として社史に刻まれるのかもしれない。